では、AIが感情労働をある程度担ってくれる時代になると、人間に残された仕事はどんなものなのでしょうか。

それは、より深い共感が求められる感情労働です。

【謝罪や交渉】

既にコールセンターでは、定型的な対応はAIによる代替が進んでいます。ただ怒っている顧客への対応や、人間関係修復、謝罪、交渉などは、現在のAIでは相手に誠意が伝わりません。むしろAIで対応すると火に油を注ぎかねません。そこで人間が対応しています。

【感情的に意気投合して、あえてリスクを負う】

チームで徹底的に議論した結果、「このプロジェクトは、ボクたちでリスクを取ってやろう」と意気投合してガッチリ握手する、みたいなことは、AIではできません。

人間とは違って、AIは主体とはなり得ないからです。

また感情「労働」ではありませんが、こんなことも人間しかできません。

【沈黙の寄り添い】

サントリー(当時は壽屋)でコピーライターとして活躍した作家・山口瞳さんは「江分利満氏の優雅な生活」という作品を書いています。この作品は、直木賞を受賞しました。

時代は昭和37年。日本は高度成長の真っ最中。江分利家の2階には、特派員の米国人・ピートが住んでいます。主人公・江分利満氏の母が亡くなり、江分利家で母の葬儀が行われた夜、ピートと江分利氏は、バーボンを傾け、二人で飲んでいます。

江分利氏は33歳になったばかり。江分利家には借金があり、返せるか不安です。妻を笑顔にできるのか。息子を無事育てることができるか。既に自分の身体は衰え始め、才能の限界も見えています。小説の一本くらいは残したい…。でもそんなこと、本当にできるのか?

妻にも息子にも、こんなことは言えない。 そうだ、この米国人ピートに言ってみよう。

そして片言の英語を話す江分利氏と、ピートのやり取りがあります。

ウェオ…アイム…ステオ・イン・マイ・アアリイ・サーリース (I`m still in my early thirties)