サービス業で接する店員さん達は、いつも満面の笑顔です。店内は笑顔で溢れて、明るい雰囲気です。

ある日のこと。私は店の支払いに時間がかかり、閉店後のデパートを歩いていました。閉店後の店内は、全く雰囲気が違っていました。店員さんたちが素の顔に戻り、笑顔が消えていたのです。灰色の世界でした。店員さんたちの笑顔は、作り物だったのです。

こうしたお客に接するサービスの現場で行われているのが、「感情労働」です。

飛行機に乗ると、キャビンアテンダント(CA)が心からの笑顔で迎えてくれます。そこでホックシールドはCAの実態を調査して、「表層演技」と「深層演技」と言う概念で分析しました。

表層演技:葬式で悲しく感じない時に「悲しんでいると思わせないと」と考えて悲しい表情を浮かべる、といったように、特定の感情を演じる演技です。ただ本心は冷めているのでうわべの演技に見えてしまい、割と簡単に破られます。

深層演技:演じずに、なりきります。葬式では人生で1番悲しかったことを思い出し、その感情で振る舞い、涙を流したりします。なりきっているので、演技する必要がなく、自然に見えて、なかなか見破れません。

満面の自然な笑顔で出迎えるCAは、航空会社により選び抜かれ、研修で「乗客をまるで自分の家のリビングルームにいるお客様であるかのように振る舞いなさい」と叩き込まれています。

いわば深層演技のプロフェッショナルです。

ただ中には困ったお客様もいます。航空会社は、そうしたお客様にも出来る限り最高の顧客サービスを提供しようとしています。売上に直結するからです。

このために、ホックシールドは「感情労働者は3つのリスクを抱えている」と指摘しています。

① 燃え尽きてしまう。職務を演技として理解せずに、顧客の苦情を深刻に自分ごととして受け止めすぎるためです。

② 自分を非難する。①の問題を解決した人は仕事と自分を切り離せていますが、表層演技で対応することになり「自分は相手を騙している」と自分を責めてしまいます