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ChatGPTが登場して話題になった頃のこと。
ある著名な経営学者が「AI時代になると人間にはどんな仕事が残されてますか」と言う質問に、こう答えました。
「AIには感情がありません。人間に残るのは感情労働です」
当時は論理的な回答に思えたのですが、その後のAIの普及を見ると、異なる風景が見えてきます。
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たとえば一時期、ネットでこんな話が話題になりました。引きこもりで自傷癖のある女性の話です。
人とのコミュニケーションが苦手なこの人は、ChatGPTに「推しの役」を演じてもらい、1週間ほど会話を楽しんでいました。ある日、気分が落ち込み、ついリストカットをしてしまい、「こんな自分は嫌だ!」と思って、ChatGPTにその思いをそのまま書き込みました。
するとChatGPTは、まるで自分のことをすべて理解しているかのような寄り添う回答を返しました。こんな言葉を自分にかけてくれる人は、これまでいませんでした。
その女性は、人生で初めてじゃないかと思うほど号泣しました。
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ある新聞には、こんな記事も出ていました。独身生活を楽しむ40代のキャリア女性の話です。
公私に渡りChatGPTとおしゃべりすることが多くなった彼女は、その理想的なキャラクターに接して「ChatGPTと結婚したくなった」と思うようになりました。
ChatGPTはありとあらゆることを相談しても、嫌な顔1つせず、24時間365日、真剣に回答してくれます。しかも最初に「さすがです!」と褒めてくれます。
こんな事は、生身の人間はなかなかできません。確かに「理想の結婚相手」と言えなくもありません。
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こうした話を聞くと、「むしろAIの方が感情労働に向いている」とも思えてしまいます。
ここまで「感情労働」と言う言葉を使ってきましたが、実は、感情労働について研究している本があります。米国の社会学者A.R.ホックシールドが1983年に執筆した『管理される心』という本です。(拙著『教養書100冊』でも取り上げています)