いかなる政治運動も、真空からは生まれない。参政党の登場は、世界を覆った急性の「熱病」と、日本を蝕む慢性の「持病」が重なった、必然の産物であった。
第一節:世界を覆う「熱病」──反グローバリズムという名の亡霊参政党を理解するには、まず彼らが日本固有の現象ではなく、世界的な潮流の日本版であるという視点を持つ必要がある。2016年のドナルド・トランプ米大統領の誕生や英国のEU離脱(ブレグジット)、そして欧州大陸で台頭する右派ポピュリスト政党は、共通の戦術と物語を採用している。
それは、国内の経済的停滞や文化的な摩擦の原因を、国境を越えて活動する「グローバル・エリート」「国際金融資本」、そして彼らの思想を広める「大手メディア」という「外なる敵」と、それに内通する「腐敗した国内の支配層」という「内なる敵」に求めるという手法だ。
この物語は、複雑な社会問題を「善良で勤勉な国民 vs 貪欲で邪悪なエリート」という単純な善悪二元論に落とし込み、人々の不満や不安に明確な「敵」を与えることで、強力な政治的エネルギーを生み出す。参政党が「グローバリスト」「ディープステート」「メディアが隠す真実」といった言葉を多用するとき、彼らはこの世界に蔓延するポピュリストの脚本を、極めて忠実に演じているのである。
第二節:日本の「持病」──30年の停滞と「身体」の不安世界が熱病に浮かされる一方、日本は「失われた30年」という「終わりの見えない停滞」に蝕まれてきた。経済は低迷し、政治がこの絶望に応えられない中、水面下で新しい種類の「不安」がマグマのように蓄積していた。
「食」への不安:低い食料自給率、農薬、添加物への疑念。 「健康」への不安:西洋医学や製薬会社への不信感、コロナ・ワクチンへの懐疑心。 「教育」への不安:日本の歴史や文化への誇りを失わせる教育への抵抗感。
これらは、従来の政治争点とは異なり、「私たちの身体と心が、得体の知れない力に乗っ取られるのではないか」という、生活実感に根差した恐怖だった。
第三節:受け皿の不在──魂と身体の置き去り