つまり、「そもそも私たちが理解している一般化第二法則は、究極の量子理論の前では成り立たない可能性があるのだ」と、彼らは言うのです。
こうした考え方によれば、宇宙が崩壊しても量子力学的な作用でエントロピーが大きく変動し、新たな宇宙の再生が起こり得る余地が残されていることになります。
将来、究極の量子重力理論(科学者が『オニオンの芯』のように難しいと例える、いまだ未知の理論)が完成すれば、特異点やエントロピーに対する新しい見方が生まれる余地はあります。
もしかすると「特異点は実在しない、別の形態に置き換わる」というシナリオも完全には否定できません。
しかし、それは現在の物理学常識を覆すほどの大変革になるでしょう。
少なくともブーソ氏をはじめ多くの物理学者は「どんな理論においても、時間が止まる境界のようなものは残るだろう」と考えています。
言い換えれば、因果の連続性が途切れる“穴”としての特異点は、宇宙論から逃れられないのではないか、というわけです。
宇宙論のロマンと謎は尽きることがありませんが、少なくとも現時点では「我々の宇宙は一度限りの贈り物」である可能性が一段と高まったと言えるでしょう。
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元論文
Robust Singularity Theorem
https://doi.org/10.1103/6f9b-3jmx
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部