「肥満だからといって一括りに語れない」という認識は、偏見の軽減やよりきめ細かな健康教育にもつながるはずです。

例えば「遺伝的にインスリン抵抗性が高いタイプ」の人には糖質の摂り方に注意する指導が必要かもしれませんし、「神経内分泌型」の人にはストレス管理が重要になるかもしれません。

このように個人の体質に合わせた対策が講じられるようになれば、肥満に起因する糖尿病や心臓病などの合併症リスクを効率的に下げることが期待できます。

もっとも、今回提示された11種類の分類はスタートラインに立ったばかりです。

今後の研究で各タイプの詳細なメカニズムや効果的な介入方法が解明されていくでしょう。また実際の医療現場でこの分類法を使うには、更なる検証やツール開発が必要です。

しかし専門家たちは、この研究が「肥満という状態そのものが多様であるのと同様に、肥満の予防や管理もまた多様である必要があります」と述べています。

つまり、肥満という“症状”の裏に潜む多彩な原因に目を向け、その人に合った戦略を取ることが重要だというメッセージです。

私たち一人ひとりが自分の「肥満タイプ」を知る日が来るかもしれません。

その時には、減量方法も薬の選択もオーダーメイドで最適化され、「肥満=不健康」という単純な図式は過去のものになっている可能性があります。

今回の発見は、そんな未来への道筋を照らす画期的な一歩と言えるでしょう。

肥満と闘う科学は今、より緻密で優しいアプローチへと進化しつつあるのです。

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元論文

Genomics reveals eleven obesity endotypes with distinct biological and phenotypic signatures
https://doi.org/10.1101/2025.06.30.25330607

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。