現状日本では、送配電費用の需要家負担は当たり前であることに加え、新たな工場立地や需要増に対応して産業用の高圧送配電インフラを整備し、容量を確保するためには需要側企業がそのコストを負担しなければならない。ドイツでは国が全面的に負担することになった再エネ賦課金についても、要件を満たした電力多消費企業について限定的な減免措置があるものの、基本的に産業需要家も一律に3.98円/kWh(2025年度)の賦課金負担を強いられているのが現状である。

もしドイツでは国際競争力維持のために産業用電気料金を8.5円/kWhに抑制し、さらに送配電その他の受電にかかわる賦課金や政策的費用も全額免除することが必要だというのであれば、ドイツと同様に自動車、鉄鋼、化学といった産業を抱え、それらの輸出で多額の外貨を稼いできた日本でも、産業の国際競争力維持のためにドイツと同等のエネルギーコスト抑制策が必要と考えるのが合理的というものだろう。

日本では環境派の人たちやメディアの間で、気候変動対策の「見習うべき優等生」としてドイツを称え、「日本は遅れている」と唱える声が聞かれてきたが、そのほめそやされてきたドイツのエネルギー転換(Energiewende)政策がもたらした結果が、この書簡がいう「第二次世界大戦以来最悪の経済危機」だとすると、日本は決してその轍を踏んではならない。

今後ドイツのメルツ新政権がこうした自国産業界からの「悲鳴」にどういった対応をするか、産業向けのエネルギーコスト低減に向けてどのような具体的な「産業政策」を導入するか、日本の産業関係者は、政府やメディアも含めその成り行きを凝視していく必要がある。