この書簡の結びの言葉は以下のとおりである:

「この連邦政府のアクションは抽象的に産業立地としてのドイツの将来を決定するするだけではなく、間違いなく何百万という産業労働人口を決めるものになる。絵空事(empty words)を聞く時間はもう終わりだ。我々の同僚たちは何を実行するかでこの政府を見極めている。」

※ 書簡の引用部分の強調は筆者が追記

なんとも明快かつ具体的な政策要求ではないか。ここまでドイツの産業が追い込まれているという実態を表した書簡にはいささか驚かされた。

実際この書簡に署名した労組を抱えるアルセロール・ミッタル社は、ドイツ政府から13億ユーロ(約2200億円)にのぼる補助金を得てEisenhuttenstadt製鉄所を含む国内2か所の製鉄所で行う予定だった「水素製鉄」にむけた設備投資計画を中止することを、去る6月末に発表している。

同社はその理由として、グリーン水素の供給の目途が立たないことに加え、ドイツ国内の電気料金が相対的に高いことと、中国等からの輸入鋼材との競争激化を挙げており、要するに産業立地としてのドイツの競争力低下により事業化が困難となっているとしている。

これは日本にとって「他山の石」とすべきではないか? 書簡でドイツの産業は産業用電気料金について5¢/kWhを要求しているが、これは日本円に換算すると約8.5円/kWhの水準(1€=170円で換算)である。しかし実際の日本の産業用電気料金の水準は資源エネルギー庁によると、震災と原発休止前の2010年に14.33円/kWhだったものが約74%も上昇し2023年で24.89円/kWhとされており[iii]、ドイツ産業が国際競争力維持のために必要とした水準の約3倍になっている。

また、ドイツではロシアによるウクライナ侵攻の影響で高騰したエネルギーコスト高騰緩和のため、従前家庭や企業に課金されていた再エネ賦課金(EEG)について全額政府が負担する政策に切り替えている。そのうえで書簡ではエネルギー多消費産業について、電力料金(本体価格)の抑制に加えて、送配電費用、再エネ配電賦課金、容量接続費用といった電力需給にかかわる追加的な費用についても恒久的に免除することを求めているのである。