実験に参加した患者たちは、モニター画面に表示される2つの選択肢のうち1つを選ぶという「選択課題」に取り組みました。選んだ選択肢によって報酬(コイン)が得られるかどうかが変わる仕組みになっており、報酬の出現確率は一定ではなく、プレイヤーにとって「どっちを選べば得か?」を試行錯誤しながら選ぶ必要がありました。
このような状況で、人は「今は運がいいか悪いか」「どっちの選択肢が当たりやすいか」といった“流れ”や“直感”を頼りに意思決定をするようになります。
研究チームは、こうした意思決定の過程で、脳内のドーパミンがどのように動いているのかを、時間と空間の両面から詳細に分析し、人間の脳におけるドーパミンの働きが、これまで考えられていたよりもはるかに複雑で、状況に応じて繊細に変化している可能性を発見したのです。
ドーパミンはピンポイントなバーストだった
では、研究チームは何を見つけたのでしょうか?
まず明らかになったのは、ドーパミンの放出がこれまで想像されていたものとはまったく違っていたということです。
これまでドーパミンは「報酬が得られたときに脳全体に広がる快感の信号」のように捉えられてきました。ところが今回の研究で観測されたのは、それとは正反対の現象でした。ドーパミンは、ごく短い時間に、脳内の特定の場所にだけ、ピンポイントで放出されていたのです。
研究者たちはこれを「バースト(burst)」と呼んでいます。まるで“狙い撃ちするように”必要な神経細胞にだけ信号を送り、しかもそれをほんの一瞬でやってのけているのです。
さらに興味深いのは、この放出のタイミングや場所が、そのときの状況に応じて変化していたという点です。
たとえば、被験者が「ここ最近ずっと報酬が出ていなかった」ような状況で報酬を得たときと、すでに報酬が続いている“運の良い流れ”の中で同じ報酬を得たときでは、ドーパミンが放出された場所やタイミングが異なっていたのです。