さらに研究チームは、カメの「気分」と「不安」の関係にも注目しました。

そのために、同じ個体に対して2つの追加テストも行いました。

ひとつは「新奇物体テスト(見慣れない物体テスト)」と呼ばれ、見慣れた場所に突然置かれた異物(ビーズコースター)に対する反応を測ります。もうひとつは「新奇環境テスト(見慣れない環境テスト)」で、壁や床の模様や素材が普段とまったく異なる場所にカメを置き、どれだけ早く動き出すか、どれだけ首を伸ばすかといった行動を観察します。

ビーズコースターの例/Credit:canva

これらはどちらも、不安が強いと慎重になり、動きが遅くなるという傾向を利用した、不安の度合いを測るテストです。

研究チームのねらいは、認知バイアス課題で“楽観的”な判断をしたカメが、新奇なものにも積極的に行動する、つまり“不安が少ない”傾向を示すのではないか、という点にありました。言い換えれば、「気分」と「不安」が互いに関連しているかどうかを調べたのです。

このように、従来「不向き」とされていた方法を、慎重に検討し、アカアシガメの特性に合わせて最適化することで、爬虫類の“気分”を科学的に評価するという前例のない試みに成功したのが今回の研究です。

では実際に、カメたちはどのような反応を見せたのでしょうか?

「楽観的なカメ」は新しいものにも前向きだった――行動に表れた“気分”と“不安”のつながり

では実際に、カメたちはどのような反応を見せたのでしょうか。

まず、認知バイアス課題の結果では、15匹のアカアシガメのうち多くが、あいまいな位置に置かれたボウルに対しても、ある程度自信をもって近づいていく傾向を示しました。

とくに、ポジティブな位置(エサがある場所)に近い側に置かれたボウルには、より早く反応する個体が多く、ネガティブな側ではためらう個体が目立ちました。

これは、カメたちがエサのあるなしを正しく学習しているだけでなく、あいまいな状況に対して「楽観的」か「悲観的」かの傾向が現れていることを意味します。