インフルエンサーとは、単にフォロワーが多い人たちではない。それが認知戦への加担か否か問わず、紹介する情報がデマか真実か問わず、得意分野の火種を消えないように温存している人たちであり、絶好の機会を逃さず情報を元に人々の感情を発火させる人たちだ。
認知戦を仕掛ける国家や集団も、インフルエンサーや世論の動向を虎視眈々と観察している。こうして日常的に、スマホの中で認知戦が続いているのだ。

認知戦は絶好の機会を見計らって人々の感情を発火させる
日本において認知戦が意識された最初の事例である、ALPS処理水放出前後の様子を振り返ってみよう。
福島第一原発のALPS処理水放出をめぐっては、処理水を汚染水と呼ぶマスコミと政治家、活動家、インフルエンサーが放出の日程が明らかになる前からいた。これらの情報源をフォローしている人々もいた。これが話題の火種で、彼らは火種が消えないように発言を続け、放出日が近づくと活動を活発化させた。
日本国内の動向と連動して中国共産党と国営メディアはたびたび事実を歪曲し、デマを流布させ、日本の反原発運動が温存していた火種に「薪」を提供した。この動きは日本に対しての認知戦であっただけでなく、中国国内の世論に影響を与える情報戦でもあり、中国人の反日感情を高めた。
このとき中国共産党と国営メディアがプロパガンダで扱った話題のほとんどが、日本国内でくすぶっていた出来事や、国内の政治家や活動家が発信していた情報を元にしたものだった。たとえば「老人と海」と題したものは、実在する放出反対派の漁師を彷彿とさせる表現だった。
国内には処理水を「飲めるものなら飲んでみろ」と訴える定番のやりとりがあったが、このとき引用されていた2011年10月に低濃度汚染水を浄化した水を飲んで安全性をアピールした園田康博氏のエピソードもデマに利用された。

中国共産党と国営メディアが流した「汚染水」プロパガンダの数々と中国人の反応