関空での出来事から民進党の大敗までを検証した台湾の国防安全保障研究所と、中央研究院ヨーロッパ・アメリカ研究所の研究者は、論文で中国が仕掛けた認知戦だったと結論づけている。
中国共産党がSNSへのデマ投稿をきっかけに興奮した人々を焚き付けて、怒りの矛先として蘇啓誠処長と蔡英文総統と民進党を指し示したことで、モラル・パニックが発生した。人々は外交官と総統と政権を、社会秩序への脅威と信じ込んだのである。
認知戦の構造
関空救出譚から認知戦とはどのようなものか、その基本骨格を明らかにする。
認知戦は放火犯のようなものと誤解されている。A国がB国に認知戦を仕掛けるとき、火の気がないところでマッチを擦るように、誤った情報をB国に送り込むという誤解だ。
だが実際の認知戦は、B国に火種を発見したA国が、その火種に向かって薪をくべて、様子を見ながら薪の量を増減する様子に例えられる。

認知戦への誤解と実際
関空救出譚の場合も、火種は台湾国内にあった。台湾には、独立した国家を志向する人々と、中国との一体化を求める人々がいる。SNSに投稿された関空救出譚の中国賛美投稿は、親中国の台湾人(と思しき人物)が吹聴したデマだった。この種火を中国共産党が激しく燃え上がらせて政権批判に誘導し、地方選で再燃させたのである。
ではデマを吹聴したり、騒ぎを過熱させた人々は、中国共産党から金銭を受け取っていた工作員なのだろうか。
台湾には中国共産党配下の職業的工作員がいるほか、中国大陸とのビジネスで恩恵を受けようと考えて親中国・反独立の言動をとる人や、前述した中国との一体化を進めたい政治家がいる。もちろんこれらの人々も認知戦に関与しているが、関空救出譚に限らず、認知戦で情報を拡散したり、デマからデマを生み出したり、デマを元に誹謗中傷を行った中心人物はインフルエンサーとフォロワーであり、その多くが匿名の人々だった。
インフルエンサーの生態は世界共通で、投稿がSNSなどで話題の中心になるいわゆる「バズり」で承認欲求を満たし、バズれば何らかの方法で収益化がはかどり報酬が増えるのを期待する。場合によっては、SNSの有名人からステップアップしてジャーナリストや専門家と呼ばれたいと願う人もいるだろう。

認知戦はインフルエンサーが情報を拡散