ここでモンテーロ氏を「過去形」で紹介したのは、誠に残念ですが、若くしてお亡くなりになったからです。わたしは、単極世界のグランド・セオリー(大理論)を構築した時から、かれには注目しており、また、核拡散に関する共同研究は自分の論文でも引用して、その卓越した研究成果を取り入れていました。モンテーロ氏は間違いなく世界の国際関係研究をけん引するであろう有望な政治学者だったので、急逝が惜しまれます。心よりご冥福をお祈りします。

第1の波 —リアリズム批判—

この記事では、冷戦終結に関する上記の3つの研究の波を、わたしが注目する学術書や論考を取り上げながら、追っていきたいと思います。

第1の論争に言及するのに欠かせないのが、リチャード・ルボウ氏(キングス・カレッジ)とトーマス・リッセ・カッペン氏(ベルリン自由大学)が編集した『国際関係理論と冷戦の終結(International Relations Theory and the End of the Cold War)』(コロンビア大学出版局、1995年)でしょう。

本書においてルボウ氏は、「ソ連の衰退に対する反応は、いかなるリアリストの理論でも把握されなかった」と手厳しく批判しています(前掲書、36ページ)。ただし、このアンソロジーが、リアリズムを全面的に否定しているかといわれれば、そうではありません。同書の終章において、リチャード・ハーマン氏(オハイオ州立大学)は、この共同研究を次のようにまとめています。

「リアリズムがソ連の対外政策の変化を予測できなかったことを理由に、それを否定するのは公正ではない。これは対外政策の理論ではないのだ。その一方で、リアリズムは大国間関係における変化に(国際)システムが与える影響を予測することを期待されるものである」

前掲書、264ページ

と的確に指摘しています。

核兵器が可能にした冷戦の終結

それでは、国際システムが冷戦の終結に及ぼした影響は、どのように説明されるのでしょうか。