表では「ウイルスとの戦いに協力を!」と囃しながら、裏では「補償でカネ貰える職種はズルい」と陰口をきき、閉店に追い詰められても「貧乏くじだねご苦労さん」と冷笑して、在宅リモートで働ける「俺さまは意識高い勝ち組カッケー!」とSNSで自讃していた。まさに鴨の味である。

ムラ社会を支えるのは、近世からの家族構造に明治民法が乗っかって作った「イエ制度」だ。これまた、日本は令和のいまもイエ制度だから……と意識高く口にされる用語だが、ほとんどの人はそのリアリティを知らない。

イエ制度の下では、結婚するのは男女ではない。「ご両家」のあいだで式を挙げ、イエの跡継ぎを設けるのが目的なので、愛とか本人の気持ちとかはどうでもいい。なので、こんな事態が起きる。

嫂〔あによめ〕との結婚にあまり気のりしていない安造にあらたまって「おめでとう」とも言えず、おれは黙っていた。年は幸子のほうが三つ上だそうだが、こういうふうに弟と嫂と結ばれる例は最近は方々にあるらしい。

隣り村では、弟が十も年上の嫂と一緒になったという話も聞いた。これを村では ”逆縁” とか ”直る” といっているが、そのほとんどは跡取り息子が戦死した家のようである。

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近世以来、日本の農村には跡継ぎ以外を結婚させる余裕はなく、とはいえ成人前に死ぬかもしれないので「ひとりっ子政策」も採れない。江戸時代にはまだ、誰が家を継ぐかに自由度があった節もあるが、明治以降に儒教思想の影響が広がると、長男以外は地元で結婚できなくなっていた。

……といった話は、2011年に出した『中国化する日本』にも、丁寧に書いている。このとき家族史や女性史をちゃんと勉強したから、近日の「女子トイレと女湯の話だけする」フェミニズム(?)には引っかからないわけだ。まさにジェンダー平等に基づく、日本史叙述の先駆けである。