しかし、こうした病気との関連性はあくまで統計的な傾向を示した段階であり、この遺伝子変異そのものが直接病気を引き起こすことを示しているわけではありません。
実際、今回のマウス実験からも、この遺伝子変異を持つマウスが深刻な病気や問題を起こすことはありませんでした。
つまり、この遺伝子変異が良いか悪いかを単純に判断することはできないのです。
重要なのは、遺伝子の小さな変異が、他の遺伝子や成長環境といったさまざまな要素と相互に作用し合いながら、生き物の体を作っているという点です。
私たち人間の体や病気になる可能性は、たった一つの遺伝子だけで決まるわけではありません。
むしろ、多くの遺伝子が互いに協力し合い、環境からの影響も受けながら複雑な「遺伝子のオーケストラ」を演奏しているのです。
そのため研究者たちはマウスがネアンデルタール人風の変化を起こした理由についてネアンデルタール人やデニソワ人が持っていたGLI3遺伝子の変異(R1537C)は、タンパク質自体の基本的な安定性や、主要なヘッジホッグ(Hedgehog)シグナル伝達機能を損なうことなく、骨格形成に関わる特定の遺伝子の調節に微妙な変化を与えることが主な要因と予測しています。
つまり、深刻な異常を引き起こさない範囲での「さりげない変化」が骨格の発達バランスを変え、ネアンデルタール人に似た特徴を生じさせたわけです。
今回の研究ではさらに興味深いことに、このような小さな変異が「人類の進化」にどのように関わっているかということも示唆しています。
もしある遺伝子の変異が、体に致命的な害を与えることなく、むしろわずかながらも体の形に変化を与えるとしたらどうでしょうか?
その変異は自然淘汰によって取り除かれることなく、静かに次の世代へと引き継がれていくことになります。
実際、今回研究対象になった遺伝子変異は、腰や背中の病気や体型(腰と臀部の比率)との関連性が初期のデータ解析から示唆されています。