デヴィット・リカードが発見した「比較優位説」を、小室は「日米それぞれに労働者が2人ずつおり、コメと自動車だけを作る」というモデルを使い、「労働価値説」を用いて、「貿易をやった方が、やらないより、良くなるとも断言できないが、より悪くなることはない」ということを説明している。

「労働価値説」とは、アダム・スミスが唱え、リカードが完成させた、「商品の値段は、それを作るための労働によって決まる」という説。小室はその完成度を、「『マルクスは、リカードの労働価値説の針から銛から釣り竿まで、そっくりそのまま飲み込んでしまった』というシュンペーターのまことに見事な評価だけによっても知られるでしょう」と『論理の方法』(東洋経済新報社、03年5月刊)に記している。

「コメ」と「自動車」を例に用いた小室の解説は以下のようだ。

日米それぞれ1人がコメを、1人が自動車を1年間作ると、日本はコメ6トンと自動車3台を、米国はコメ12トンと自動車4台を作れると仮定する。日米合わせるとコメ18トンと自動車7台を作れる訳である この場合の日米の生産性を「生産に必要な労働時間」を単位にして表すと、日本はコメ1トンを2ヶ月で、自動車1台を4ヶ月で作れ、米国はコメ1トンを1ヶ月で、自動車1台を3ヶ月で、それぞれ作れる生産性を有することになる 米国に対する日本の生産性は、コメも自動車も「絶対劣位」にある。が、これを「比較優位説」で考えると、米国はコメ1トンを生産する労働力で自動車を3分の1台しか作れないが、日本はコメ1トン分の労働力で自動車を2分の1台作れることになる。つまり、日本は自動車の生産において米国よりも「比較優位」であると判る ここで日米が貿易すべく、それぞれ「比較優位」を持つ財の生産に特化して生産すると、米国はコメ24トンと自動車0台を作り、日本はコメ0トンと自動車6台を作るので、日米合計でコメ24トンと自動車6台の生産になる。が、これでは、1に比べてコメは6トン(24-18)増えるが、自動車は1台(6-7)減ってしまう そこで米国の労働者1人がコメを3トン作る時間を自動車1台の生産に充ててみる。すると米国はコメ21トンと自動車1台を作れるので、日米合わせてコメ21トンと自動車7台が作れることになる 結論:日米それぞれが「比較優位説」に基づいてコメと自動車を生産し、貿易するならば、1に比べて自動車7台は変わらずに、コメ3トン(21-18)の増加を享受できことになる

以上で明らかなように「比較優位説」は「国際分業の理論」だ。今般のトランプ関税交渉でも対日本の話題は「自動車」と「コメ」。これを「比較優位説」で考えれば、日本が関税を課していない「自動車」は日本が「比較優位」である一方、輸入米に関税を掛けている「コメ」は日本が「比較劣位」と判る。つまり、国内産業保護が目的の関税は、「比較劣位」の産業の生産物に課すのである。