参政党の戦略において、最も独創的で、そして日本社会の深層を突いたのが、この第三の技術である。それは、「抽象的な政治イデオロギー」を、「具体的な身体感覚の危機」へと翻訳する、驚くべき手腕だ。
「反グローバリズム」や「緊縮財政反対」といった抽象的なスローガンは、人々の頭では理解できても、心を、そして身体を直接動かすには、力が弱い。多くの人は、それを「自分ごと」として感じられない。
そこで、参政党はこう語りかける。 「グローバリストや、彼らと結託した政府が、あなたの身体、そしてあなたの子供たちの身体を、直接蝕んでいるのですよ」と。
抽象的な敵(グローバリズム) → 具体的な脅威(あなたの身体への危機)
食料自給率の低下 → 輸入小麦の農薬、危険な食品添加物 医療利権 → ワクチンの危険性、不必要な薬の投与 教育のグローバルスタンダード → 日本の伝統を破壊するジェンダーフリー教育
この翻訳は、絶大な効果を持つ。政治の問題が、「憲法9条をどうするか」という高尚な議論から、「明日の給食に、我が子は何を食べさせられるのか」という、母親の腹の底から湧き上がるような、根源的で、拒否しようのない不安へと転換されるからだ。
この「身体の政治学」こそが、参政党が、従来の保守政党が決して取り込めなかった、政治に無関心だったはずの女性や若者、子育て世代を、新たな支持者として獲得できた、最大の要因なのである。
「敵」を創造し、独自の「教会」を築き、そして人々の「身体」に直接訴えかける。この三位一体の戦略によって、参政党は、日本の政治に空いていた巨大な空白地帯に、確固たる橋頭堡を築くことに成功した。彼らの思想そのものを理解するためには、まず、この恐るべき戦略の巧みさを、私たちは直視しなければならない。