「悪いのは、あなたではない。あなたから奪っている、あの『敵』なのだ」──。この単純明快なメッセージが、先行きの見えない不安の中にいた人々の心に、どれほど力強く響いたかは、想像に難くない。
第二節:デジタル時代の「教会」──メディアに依存しない「信空間」の構築「敵」を設定した次にポピュリストが目指すのは、その「敵」である大手メディアを通さずに、大衆と直接繋がるための、独自のコミュニケーション・チャネルを確立することだ。新聞やテレビへの信頼が地に落ちた現代において、この戦略は絶大な効果を発揮する。
参政党は、この点において、日本のどの政党よりも巧みであった。彼らが築き上げたのは、単なる情報発信ツールではない。それは、外部の批判や情報を遮断し、内部の結束と信仰を強化する、いわばデジタル時代の「教会」であり、独自の「信空間(しんくうかん)」とでも呼ぶべき生態系である。
YouTubeという「説教壇」:彼らの主戦場は、一貫してYouTubeだ。ボードメンバーによる1時間を超える長尺の演説や勉強会は、単なる政策アピールではない。それは、複雑な世界を分かりやすく解説し、進むべき道を示す「教祖」から、熱心な「信徒」への「説教」の構造を持つ。視聴者は、候補者の言葉に頷き、コメント欄で信仰を告白し、一体感を醸成していく。 プラットフォームの使い分け:YouTubeに加え、より熱心な支持者が集うニコニコ動画の有料チャンネルでは、さらに踏み込んだ「秘儀」が伝授される。X(旧Twitter)では、教義の要約が拡散され、動員が呼びかけられ、「敵」への攻撃が行われる。この重層的なメディア戦略が、信空間の強度を、日に日に高めていくのだ。
この閉じた空間の中では、党の教義は絶対の真理として共有され、外部からの批判は、すべて「敵であるメディアによる不当な攻撃」として解釈される。この構造が、いかなるスキャンダルや批判にも揺るがない、強固な支持層を形成する源泉となっている。
第三節:「身体」の政治学──グローバリズムから「オーガニック給食」へ