第2章で解剖したように、参政党の戦略は極めて高度で、現代的である。しかし、いかに優れた戦略も、それが伝えるべき「物語(ナラティブ)」が人々の心を捉えなければ、空虚な技術論に終わる。彼らの真の強さは、その戦略の根底に、現代日本人の不安と渇望に寄り添う、シンプルで、しかし力強い「思想」を据えている点にある。
本章では、参政党が支持者に向けて語りかける、その核心的な思想──すなわち、「日本を取り戻す」という壮大な物語──の内実に迫りたい。そして、その物語が、なぜ現代においてこれほどまでに魅力的に響くのかを、作家・橘玲氏が描く世界観との対比を通して、深く考察する。
第一節:奪われた「国」というグランド・ナラティブ参政党が提示する世界観の根幹は、一つの「神話」から始まる。
それは、「かつて日本は、美しい伝統と誇り高い歴史、そして国民の健康と安全が守られた、素晴らしい国だった。しかし、戦後の歩み、特にグローバル化が進んだこの30年で、その主権、文化、そして私たちの身体さえもが、外国勢力や、彼らと結託した国内の支配層(第2章の『敵』)によって奪われてしまった」という物語だ。
この物語において、現状は「本来あるべき姿から逸脱した、異常な状態」として描かれる。そして、党の目的は、その失われたものを取り戻し、日本を「本来の姿」へと回帰させる、という極めて明快なものとなる。
この「奪われた日本を取り戻す」というグランド・ナラティブは、支持者に対して、以下の三つの強力な心理的効果をもたらす。
第一に、現状の漠然とした不安に対して「原因はこれだったのか」という、分かりやすい「診断」を与える。第二に、「グローバリスト」や「メディア」といった、憎むべき「敵役」を明確にする。そして第三に、支持者自身を、国を取り戻すための戦いに参加する「物語の主人公」へと昇格させるのである。
第二節:「日本を取り戻す」ための三本の矢では、具体的に何が「奪われ」、何を「取り戻す」べきだと彼らは主張するのか。その思想は、大きく三つの柱(三本の矢)に集約される。