彼らの思想は、決して一夜にして生まれたものではない。それは、日本の片隅で、既存の政治に絶望し、しかし国を憂う人々が、10年以上の歳月をかけて、静かに、しかし着実に培ってきたものだったのだ。
第2章:参政党の戦略書──日本的アクセントのグローバル戦略
好都合な気候が生まれ、栄養豊富な土壌が広がっていたとしても、種が勝手に芽吹き、大樹に育つことはない。そこには、土を耕し、水をやり、雑草を抜く、巧みな農夫の存在が不可欠である。
第1章で、私たちは参政党が生まれるための世界的な「気候」と、日本特有の「土壌」を分析した。本章では、参政党が、いかにしてその土壌に種を蒔き、支持者という作物を育て上げていったのか、その極めて洗練された「農法」──すなわち、彼らの戦略を解剖していく。
彼らの戦略は、決して思いつきの素人芸ではない。それは、世界中のポピュリストたちが実践し、成功を収めてきた「標準的プレイブック」を忠実に実行しつつ、そこに、日本人の心性に訴えかける、巧みなアクセントを加えた、高度な政治技術なのである。
第一節:「敵」の創造という技術──ポピュリストの第一手ポピュリズムが、大衆の心を掴むために、まず初めに行うこと。それは、シンプルで、分かりやすく、そして憎みやすい「敵」を創造することだ。国民を「清廉で、勤勉で、虐げられている私たち」と定義し、それに対置する「腐敗し、怠惰で、私たちから搾取する彼ら」という構図を作り上げる。この手法は、人々の不満や不安に、具体的な「宛先」を与えることで、複雑な社会問題を、単純な善悪の物語へと転換させる、強力な麻薬である。
この点において、参政党は、世界のポピュリストの教科書を、一字一句違わず実行している。彼らが設定した「敵」のリストは、明確だ。
グローバリスト:国境を越えて利益を追求する国際金融資本、多国籍企業、そしてそれに追随する政治家たち。日本の富を海外に流出させ、国民の生活を破壊する元凶として描かれる。 官僚機構:特に財務省を筆頭とする、緊縮財政を信奉し、国民への投資を怠る「既得権益の塊」。 大手メディア:国民に真実を伝えず、エリート層に不都合な情報を隠蔽する「支配層のプロパガンダ機関」。 医療・製薬利権:国民の健康よりも、自らの利益を優先する巨大な産業複合体。
このリストを見れば、既視感を覚えるはずだ。ドナルド・トランプが「ディープステート(闇の政府)」「フェイクニュース」と叫び、ヨーロッパの右派が「ブリュッセルの官僚」を攻撃したのと、その構造は全く同じである。