銅イオンは電子をひとつだけ余分に持っていて、この電子が「小さな磁石」のように振る舞います。
つまり、目には見えませんが、銅イオンひとつひとつが小さな磁石として機能しているんです。
アタカマイトがさらに特別なのは、この銅イオンの並び方です。
アタカマイトの中では、銅イオンが「のこぎりの刃」のような特殊な形を作っています。
「のこぎりの刃」の部分は三角形が連なった形になっていて、これがちょっと厄介な問題を引き起こします。
磁石には「N極とS極」という性質があり、二つの磁石はお互いに反対方向を向いて並ぶのが安定です(N極とS極はくっつきやすいですが、同じ極同士は反発しますよね)。
ところが、磁石が三つになって「三角形の頂点」に置かれると、ちょっと困ったことが起こります。
磁石(スピン)には互いに向き合った時に、「反対方向を向きたい」という性質があります。
これはちょうど二つの磁石を近づけた時に、N極とS極が自然に引き合い、N極同士やS極同士が互いに反発するのと似ています。
二つの磁石なら簡単に反対を向き合うことができますが、三つの磁石を三角形の頂点に並べるとどうなるでしょうか?
最初と二つ目の磁石は反対の向きを向けばそれで満足です。
ところが、三つ目の磁石はどうでしょうか?
三つ目の磁石は、両側にいる二つの磁石の「どちらとも」真反対を向きたいと思っています。
しかし、この三つ目の磁石にとっては、両隣の磁石がそれぞれ違う方向を向いているので、「どっちを向いても片方とは真反対になれない」という状況になってしまうのです。
これはちょうど、仲が良くない三人が輪になって手をつなぎ、「お互いが顔を合わせないように後頭部を向け合ってください」と言われたけれども、三人目の後頭部はどちらを向いても後頭部同士が正面から向き合わない…という状態に似ています。
このように、三つの磁石が三角形に並んだときには、必ずどこかにうまく解決できない矛盾が生じてしまいます。