ワタナベ君:資本主義に生きる私達にとっては、あって当たり前、です。発達した資本主義国では取引所は首都の真ん中に在り、そのトップはその国の名士です。しかし、その輝かしい制度が、このままでは困るくらい変調をきたしている。どこの国でも目標は経済の拡大、そのためには主要な構成員である企業(資本)が拡大しなければならない。拡大という目標のために株式市場があるとしたら“減資”というのは反対方向ですね。それ自体の意味は構成員である企業の規模の縮小ですから。

教授:そうだよね。増資が流行するならわかるけど減資なんてね。少し前まで減資なんて言葉もなかった。資本とは将来に向って増殖を目指して運動するものだから、減資は資本の概念に反している。

ワタナベ君:それが法的に許されているのはどうしてですか?

教授:日本には安定配当という長く守られてきた伝統というか慣習がある。株式はどうしても確定利付証券と比べられる。まだ充分に育っていない株式市場に当時の投資家の目を向けさせるには、「会社の経営には浮き沈みがあって、配当もいつもあるとは限りません」なんていったらそっぽを向かれる。だから安定配当は当然。では赤字の時どうするか。そこで資本→準備金への会計上の移し変えを緊急避難として容認していたのではないかな。つまり、“タコ足配当”の原資だね。

ワタナベ君:緊急避難であったはずのものが流行になった。ここに現代に特徴的な変化がある。減資の理由は三つ程あるようです。順番に検討しましょう。動機の理由の①、昔のタコ足配当はいまでもあります。資本金の一部を利益剰余金に移してそこから配当をする。

教授:日本では多くの企業がまだオーナー経営だった。資本金の大半はオーナー社長の出資で他の株主は“つきあい”です。そういう状況を前提にすると、減資による配当というのは贈り物、というか、“経営状況が悪いのは私の責任。でも配当はなんとか続けるから”ということでしょう。