脳は私たちが眠っている間にもこっそりと、その日にあった「楽しかったこと」や「達成感のあったこと」を選び、まるでお気に入りのテレビ番組を何度も見返すように再生していたのです。
研究チームは、この仕組みを「報酬(ごほうび)のタグ付け」と表現しています。
さらに興味深いのは、記憶の形成に重要な役割を果たす脳内の「海馬」と、快感を感じる「腹側被蓋野(VTA)」が、睡眠中に互いに協力し合っていたという点です。
つまり、ポジティブな記憶はただ漠然と再生されるだけではなく、「嬉しい」「楽しい」といった感情とともに脳に深く刻まれている可能性があるのです。
こうした仕組みを活かせば、私たちの学習方法や仕事の効率化に役立つ新たなアイデアが生まれるかもしれません。
例えば、苦手なことを無理に詰め込んで嫌な気持ちのまま眠りにつくよりも、まず得意な科目や簡単なタスクを行って達成感や満足感を得てから眠る方が、効率よく記憶が定着することが期待できます。
昔から「好きこそものの上手なれ」と言いますが、これは単に気持ちの問題ではなく、脳科学によっても裏付けられる現象だったというわけです。
また、今回の研究は、現代社会の睡眠問題についても新しいヒントを与えています。
最近は睡眠不足が社会的な問題となっていますが、重要なのは単に睡眠時間を増やすことだけではないかもしれません。
眠る前の心の状態を意識して、「気持ちよく眠る」ことが、より質の高い睡眠と、翌日の学習や仕事のパフォーマンス向上につながる可能性があるのです。
さらなる研究が進めば、この成果は学校や職場での教育・訓練方法の改善や、ストレス社会における心の健康(メンタルヘルス)ケアにも役立つ画期的な知見になるかもしれません。
全ての画像を見る
元論文
Reward biases spontaneous neural reactivation during sleep
https://doi.org/10.1038/s41467-021-24357-5