しかし、ここで疑問が浮かびます。
私たちは毎日たくさんの出来事を経験しますが、眠っている間に脳は一体どの記憶を優先的に選び出しているのでしょうか?
楽しかったことやうれしかったこと、あるいは嫌だったことなど、私たちが体験する出来事にはいろいろな感情が伴います。
研究者たちは、感情が強く動いた記憶や、「ごほうび」(報酬)が伴った記憶が、特に優先されて睡眠中に再生されるのではないかと考えてきました。
例えば、何かうまくいって喜びを感じた経験のほうが、睡眠中に脳が繰り返し再生しやすいのではないかということです。
ところが、実際にこれを科学的に証明することは、技術的にも方法的にも非常に難しい課題でした。
そこで今回、ジュネーブ大学の研究チームは、「脳は眠っている間にどんな記憶を優先的に選び出して再生するのか?」という未解決の疑問に正面から挑みました。
特に「楽しくて満足感を得られる経験」、つまりポジティブな感情を伴う出来事のほうが、脳内で優先的に再生されているのかを確かめることにしたのです。
では、実際に脳はどんな記憶を選んでいるのでしょうか?
勝ったゲームの記憶だけが脳でリピートされる

では、実際に脳はどんな記憶を選んでいるのでしょうか。
答えを得るため研究者たちはまず、被験者に2種類のシンプルなゲームをしてもらいました。
ひとつは、「顔当てゲーム」というもので、出されるヒントを参考にして18人の顔写真の中から正解の1人を探し出します。
もうひとつは、3D空間の迷路を矢印のヒントを頼りにして脱出する「迷路ゲーム」です。
ただ、この実験にはちょっとした工夫がありました。
実は、どの参加者も「必ず片方のゲームにだけ勝つ」ように設定されていたのです。