「おそらく、この本(『現代戦略思想の系譜』)の主要なテーマは、『戦略の科学』を探し求めることである…国家の生き残りが戦争の抑止あるいは勝利する能力によるであろうことを考えれば、戦略の成功にある永続的な原理を見つけることの価値は明らかだ…戦略とは目的と手段の関係である。すなわち、それは特定の目的を達成するためにとるべき方法を明らかにするのだ。理想的には、戦略は、適切な証拠により経験的根拠に裏打ちされた仮説にもとづくべきである…戦略の発展は科学的な事業として見られるべきであり、ここでの成功は創造性、専門性そして多くの複雑な問題の体系的分析に左右される…かれら(戦略家)は、戦争の結果を決めるであろう一般法則を定式化する共通の願望を示している」

前掲論文、141-142ページ

要するに、ウォルト氏は、科学的な戦略研究の目的が戦略に共通するパターンを見つけることであり、それは標準的な社会科学の手続きによって行われるべきであると主張しているのです。こうした立場は、演繹的方法をとるにせよ、帰納的方法をとるにせよ、実証政治学を志向する研究者にとっては、馴染のあるものです。

他方、出来事の特殊性や個別性を重視する歴史研究者にとっては、古今東西の戦略に共通する一般法則を見つけようとする試みなど、答えのない問いに挑むように思えるかもしれません。

戦略研究の難しさ

それでは、戦略はなぜ難しいのでしょうか。ウォルト氏は、歯切れのよい口調で、論点を絞った明快な回答を提示しています。「戦略思想の貧弱な品質は単に対象の複雑性のせいだけではない…要するに…科学的方法に従ってないのだ…体系的で批判的な探究は戦争を正しく理解することに不可欠であった」(前掲論文、144-145ページ)と主張して、これまでの戦略研究の方法論上の欠陥に、その根源があるとみています。

楽観的で問題含みの戦略をとってしまった失敗例として、かれは、フランスのフェルディナン・フォッシュ将軍の主張、すなわち機関銃は戦闘における攻撃を有利にするという偏向した分析を挙げています。