つまり、寄付を行った人々は、政治的・道徳的抗議として寄付を使ったのでした。

これが、ミルン氏らが着目した「報復的慈善活動」の出発点となりました。
研究チームはこの行動の動機や仕組みを明らかにするため、まずインタビューを実施しました。
報復的寄付を行った人物や、その対象となった人々への聞き取りを通じて、共通する3つの動機を見出しました。
- 寄付対象(つまり攻撃対象)への強い道徳的非難(悪意ある不正行為の認識)
- 怒り・嫌悪・軽蔑といった強烈な感情の発生
- 相手にダメージを与えるという罰の意図
次にチームは、より広範な実社会のデータを使ってこの仮説を検証しました。
2022年、カナダで発生した「フリーダム・コンボイ」(ワクチン義務化に反対するトラック運転手による抗議運動)において、支援団体への寄付が急増。
ところが政府の介入により、クラウドファンディングサイト「GoFundMe」でのキャンペーンが強制停止されました。
その直後、寄付者たちは新たなプラットフォーム「GiveSendGo」に移行し、短期間で数百万ドル規模の寄付が集まりました。
この寄付データ10万件超を分析したところ、「GoFundMe」や政府に対する怒りのコメントを書いた寄付者は、他の人より平均23ドルも多く寄付していたことが分かりました。
怒りの表現(「裏切り」「検閲」「腐敗」など)を含む投稿の多くが「モラルに反する抑圧」として認識されており、ここにも「報復」の意図が明確に表れていました。
この2つの初期研究によって、「怒り」や「道徳的違反の認識」が寄付動機となる現象が、定性的・定量的に裏付けられたのです。
人はなぜ、「罰したいから寄付する」のか?
続く第3の実験では、この報復的寄付のメカニズムをさらに細かく検証するため、548名の学生の参加者が集められました。