実際、脳全体がやや大きく複雑であることは、一般に知性や創造性と関連していると言われています。

ところがここにパラドックスが生まれます。

特に思春期という発達途中の段階では、これらの旺盛な好奇心や探究心がリスクを取り過ぎる行動や衝動的な行動につながる可能性があるのです。

また、脳の深部にある「淡蒼球」という領域も、衝動性の高さやリスク行動のコントロールの難しさと関連する可能性があり、薬物使用を始める子どもたちではこの部分も比較的大きいことがわかっています。

こうした「刺激を追い求めやすく、衝動的な行動を抑えにくい」脳の特徴は、実は本人の努力だけでどうにかできるものではありません。

私たちはこれまで、薬物を使う若者に対して「意志が弱い」「我慢が足りない」といった批判をしがちでしたが、今回の研究から見えてきたのは、そうした行動の背景には本人の意思とは関係なく、生まれつきや発達過程で形成されてきた脳の個性や特性が大きく関わっている可能性です。

もちろんこれは、薬物を使う若者が「仕方がない」と諦めるための理由ではありません。

むしろ逆です。

今回明らかになった脳の特徴は、私たちがどのように薬物依存のリスクを持つ子どもたちをサポートすべきかという方向性を示しています。

(※薬物の乱用が脳にダメージを与えるという積み重ねられてきた医学データが覆ったわけでもありません。)

例えばカナダでは、刺激追求傾向や衝動性が強い子どもたちを対象に、その特性を否定したり叱ったりするのではなく、むしろ長所として伸ばし、短所をうまくコントロールする方法を学ぶ特別なプログラムを提供しました。

その結果、数年後には薬物依存症の発症率が大幅に低下したのです。

これは、「リスク特性を叱責する」のではなく「特性を活かしつつ管理する」アプローチが薬物依存予防に有効であることを強く示すものです 。

薬物使用リスクを示す脳の個性は、見方を変えれば冒険心や創造性を育む貴重な才能とも言えます。