しかし、レイカー教授はこれを「通常の離職状況においても同様の心理が生じうる」と述べています。
「自分はなぜここに残っているのだろう」と感じてしまうのです。
こうした静かな疑問と自責感が積み重なると、「ここにいる自分」の価値が見えにくくなり、心理的な疲弊に拍車をかけてしまうのです。
「残る」ことを自分の意志に変えるために
それでも、残り続けるという選択には意味があるとレイカー教授は述べます。
ただしそのためには、何も考えずに職場にとどまり続ける“惰性の状態”から脱却し、自分の役割を再定義する必要があります。
ここで有効なのが、心理学者ミハイ・チクセントミハイの提唱した「フロー理論(Flow)」です。
フローとは、能力と課題の難易度が絶妙に合ったときに生まれる集中状態であり、充実感や達成感が得られる心理状態です。
たとえば、「気づいたら何時間も没頭していた」といった経験がそれにあたります。
長く同じ仕事をしていると、スキルは高まるものの、新鮮さや刺激が失われてしまい、マンネリ化が進みます。
すると、フロー状態に入る機会も失われ、やりがいを感じにくくなってしまいます。

そこで、以下のような「役割の再構築」が推奨されます:
- 若手のメンターや教育係としての新しい責任を担う
- 社内で小規模なプロジェクトを提案・主導する
- 働き方を見直し、時間や場所の裁量を増やす
自分の持つ歴史や知見を活かす機会を自ら作り出すことで、「長期在籍者ならではの強み」を自覚的に発揮できるようになります。
それでもなお、職場の変化についていけなかったり、期待と現実のギャップが大きくなった時には、「離れることもまた誠実な選択」であるとレイカー教授は述べています。
長くいたからこそ、見える風景があります。
そこに意味を見出すのも、勇気をもって手放すのも、どちらも等しく尊い行為です。