トランプ政権は後に対中関税を55%と表現しているが、これは猶予期間の相互関税10%にフェンタニル関税20%、更に第一次トランプ政権で多くの品目に25%の関税を課しているためである。
中国も米国原産品への125%の追加関税率を当初の34%に戻した上で、うち24%の執行を90日間停止し、追加関税率を10%とする。加えて、4月2日以降に米国に対して講じた非関税措置を停止、または廃止するために必要な行政措置を講じる。5/12から90日間なので、8/12に猶予期限がやってくる。
まだ正式なディールではないものの、中国への暫定関税は想像以上に甘い印象を与えた。本ブログでも公約通りの60%を想定しており、トランプ政権の55%というカウントの仕方を信じればニアピン賞と言えるものの、ヘッドラインに書かれる「フェンタニルを足して30%」という数字はかなり低いと言え、この暫定ディールは激しいリスクオンを招いた。フェンタニルの分もいずれ対策提示と共に撤廃されるとの観測もあるが、それで10%になるとはさすがに考えない方がいいのではないか。
世界で唯一相互関税への対抗関税を大々的に発表した中国が、さっさと暫定ディールに到達したことが、他国の通商交渉担当者の心理にも微妙な影響を与えた可能性がある。
イギリス
イギリスは最初にトランプ政権との間に「ディール」に到達した国である。
元々イギリスは対米貿易赤字国であるにもかかわらず10%の一律関税を課せられていたが、この10%の一律関税はディールでも免除にならず、イギリスは米国製品の市場アクセスの開放と引き換えに、232条に基づく自動車関税25%から「10万台の10%関税枠」を勝ち取ることができた。
“Economic Prosperity Deal”と名付けられたこのディールは我々や、恐らくトランプ政権が当初思い描いて「関税を武器に通商面の有利な条件を引き出す」ディールにかなり近い形式である。またこのディール内容から10%の一律関税は何があってもなくなることはないことが判明したと言えるだろう。