家族やパートナーといった周囲の人を巻き込み、暴力的な行動にまで発展してしまうこともあるため、社会的にも見逃せない問題です。

だからこそ研究者は、こうした異常な妄想や精神症状をできるだけ早く発見し、適切な治療を行うことが非常に大切だと強調しています。

ただし今回の研究も、あくまでひとつの事例に過ぎません。

同じ脳卒中でも、すべての人が同じように嫉妬妄想を起こすとは限らないのです。

脳の損傷はその位置や範囲がほんの少し違うだけで、症状がまったく異なるものになってしまいます。

治療法もひとりひとり異なり、ある人に効いた薬が必ずしも別の人に効果をもたらすわけではありません。

しかし、一つひとつの珍しい症例報告を積み重ねていくことで、医療や科学は新たな手がかりや発見を得ることができます。

今回の研究もまた、脳という複雑な器官が人の心や感情にどれほど深く影響を及ぼしているかを教えてくれる貴重な事例です。

私たちの人格や感情というものが、脳内のわずかなネットワークの乱れで簡単に変わってしまうかもしれない――その事実を知ることこそが、心の健康を守るための重要な第一歩となるのではないでしょうか。

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元論文

Jealousy’s stroke: Othello syndrome following a percheron artery infarct
https://doi.org/10.1080/13554794.2024.2436159

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部