嫉妬心に支配された彼女の行動は日を追うごとに過激になり、夫が眠っている間にこっそり携帯電話を調べたり、夜中に夫を起こして浮気を責めたりするようになりました。
発症から約1年が経つころには、その妄想はついに暴力事件へとエスカレートします。
激しい怒りに駆られた彼女は刃物を持ち出し、夫を攻撃するという事件を、それも別々の機会に2度も起こしてしまったのです。
幸い深刻な怪我には至りませんでしたが、彼女自身は後に攻撃の事実を否定しながらも、妄想は一向に収まりませんでした。
なぜ、脳卒中をきっかけに、これほどまで激しく妄想が暴走してしまったのでしょうか?
脳卒中が『根拠なき嫉妬』を引き起こす理由

なぜ、脳卒中をきっかけに、これほどまで激しく妄想が暴走してしまったのでしょうか?
謎を解明するため研究者たちはまず、彼女に対して詳しい精神医学的な評価を行いました。
その結果、明らかになったのは、彼女が深刻な認知機能の低下に陥っているという事実でした。
記憶力は明らかに低下し、注意力や集中力にも大きな問題が見られました。
彼女の意識は嫉妬の妄想にばかり集中し、それ以外の事柄にはほとんど注意を向けることができなくなっていました。
認知機能を評価するための標準的なテスト(ミニメンタルステート検査、モントリオール認知評価)でも、正常値を大きく下回るスコアしか得られず、脳機能がかなり深刻に影響を受けていることが示されました。
研究者たちは、他の病気が症状を引き起こしている可能性を慎重に検討しました。
具体的には、認知症、薬物中毒、代謝異常などの可能性が詳細に調べられましたが、いずれも否定されました。
これらを踏まえて次に研究者たちは、患者の脳を詳しく検査することにしました。
脳の詳しい検査を行ったところ、脳卒中によって脳の奥深くにある「視床」という部位が損傷を受けていることが明らかになったのです。