この不思議な現象を、実験室の中で再現した研究があります。
スペインのグラナダ大学とアメリカのNASAジェット推進研究所の研究チームが、実際に氷の下で起きている環境を模した装置を作り、2024年にその結果を科学誌『The Cryosphere』に発表しました。

研究者たちは、冷やした塩水(ブライン)をガラス容器に注ぎ、そこに通常の海水に相当する水を入れることで、海中の条件を再現しました。すると、予想通りブラインは下に向かって沈み、その周囲の水を次々に凍らせながら氷の管を形成していきました。
このとき観察された氷の管の表面には、南極で実際に観測されたブライニクルと同じように、成長方向と直角に伸びる氷の結晶が並んでいたのです。これは、自然界でのブライニクルが再現されたことを裏付ける強力な証拠となりました。
実験を通じてわかったのは、ブライニクルの形成には、流れ出すブラインの量、温度、水との温度差、流速などが大きく関係しており、それらの条件がわずかに変わるだけで、氷の管は形成されなかったり、途中で成長が止まったりするということでした。
ブライニクルは極めて限られた条件下でのみ現れる精巧な自然構造なのです。
ブライニクルと似た現象「ケミカルガーデン」
このブライニクルという現象には、実は似たような仕組みでできる別の現象があります。それが「ケミカルガーデン(chemical garden)」です。
ケミカルガーデンとは、たとえば金属塩の結晶をアルカリ性の水溶液に入れると、その結晶のまわりから管のような構造が生えてくるというもので、まるで植物のような形になることから「ガーデン」と呼ばれます。
内部の濃い溶液が、外側の液体よりも軽いため、上に向かって流れながら管が成長していきます。
