人間の体は、太陽が昇れば目を覚まして活動を始め、太陽が沈んで暗くなれば体を休ませて回復に努めるというサイクルを繰り返しています。
日中、強い光を浴びることで私たちの体は活動モードに切り替わり、血圧や心拍数を高め、身体を動かすためのエネルギーを効率よく使えるようになります。
逆に、夜に暗くなると体は自然に休息モードに切り替わり、心拍数や血圧を下げて、睡眠や回復に備えます。
ところが、夜間に人工的な強い光を浴びると、この体内時計がうまく働かなくなってしまいます。
夜なのに明るい環境にいると、体は「今はまだ活動時間だ」と勘違いしてしまうのです。
すると、睡眠中であっても心拍数や血圧が高いまま維持され、本来は回復に使うべき時間帯にまで心臓に負担がかかってしまいます。
言い換えると、明るい夜は、私たちの心臓を「休ませる時間」を奪っているのです。
また、夜間に明るい光を浴びることは、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を強く妨げます。
メラトニンは体をリラックスさせ、睡眠を促すだけでなく、体内の炎症を抑える働きも持っています。
そのため、メラトニンが十分に分泌されない状況が長く続くと、体内の炎症反応が活発になり、結果として血管や心臓へのダメージを徐々に蓄積させてしまう恐れがあります。
今回の研究結果は、こうした一連の悪循環が、単なる仮説ではなく、長期的な心臓病リスクの上昇という形で実際に現れることを明らかにしました。
特に興味深いのは、女性が男性よりも夜の光の影響を強く受けていたことです。
通常、女性のほうが心臓病のリスクが低いことは広く知られていますが、夜間に強い光を浴び続けることで、この女性特有の健康上のメリットがほぼ失われてしまったのです。
研究者たちは、この男女差が生まれた理由として、「女性の体内時計が男性よりも光に対して敏感である可能性が高い」と考えています。
つまり、女性は明るい夜にさらされることで、男性よりも大きく体内リズムが乱されてしまい、心臓病リスクが急激に上昇してしまうのです。