これはAI自身がデータから新しく発見した戦略であり、人間が現実に無意識に使っている意思決定プロセスを高精度で再現した結果として注目されました。

以上の結果は多少の違いはあれど「人間の脳とAIの計算が、ある意味で似た原理に収束している」という仮説を裏付けるものであり、私たちの脳の謎を解き明かす手掛かりになるかもしれません。

しかし、本当にAIが「人間のように思考する」ことが可能だと言い切れるのでしょうか?

AIが『人間の心』を再現した先にある未来

AIが『人間の心』を再現した先にある未来
AIが『人間の心』を再現した先にある未来 / Credit:Canva

今回の研究によって、「AIが人間の心や行動を幅広く再現し、さらに私たちの脳活動とも深く結びついている可能性がある」ことが示されました。

つまり、AIが単に特定のタスクをこなすだけでなく、私たちが実際にどのように迷ったり、考えたり、決定を下したりするのか、その根本的な「思考の仕組み」まで模倣できる可能性が見えてきたのです。

この成果は、心理学や認知科学の研究にとって画期的です。

なぜなら、これまで心理学者たちは、人間がどのような理由やプロセスで意思決定を行うのかを理解するために、多くの理論を作り上げてきましたが、その多くは特定の状況にしか当てはまらず、実際の人間の行動を幅広く予測することが困難だったからです。

ところが今回、ケンタウルというAIは、心理学者が苦労して組み立ててきた専門的なモデルよりも高い精度で、人間の行動を幅広い状況で予測することができました。

これは、人間の心や認知の仕組みを理解するために、AIが強力な「仮想的な実験室」になる可能性を示しています。

AIが人間の行動や思考をリアルにシミュレートできるのであれば、実際に人間を対象に実験をする前に、AI上で仮想的にシミュレーションを行い、その結果をもとに理論を検証するという新しい研究スタイルも考えられるでしょう。