また、今回ケンタウルが示した最も興味深い結果の一つは、その「内部で行っている情報処理の仕方」が、私たち人間の脳の活動パターンと意外にも一致していた点です。

ケンタウルは直接的な脳の生物学的な情報を一切学習していないにも関わらず、私たち人間が脳内で行っている処理と似た方法を自然と選び取っていました。

これは、AIと人間がそれぞれ独立して、「最も効率的な情報処理方法」という同じ答えに辿り着いている可能性を示唆しています。

言い換えると、私たちの脳とAIは、情報を効率よく処理するためには「同じ最適な方法」を見つけてしまう、という興味深い仮説を裏付けているのです。

これはまさに、人間の脳の仕組みを理解する上での「ロゼッタストーン(翻訳の鍵)」になり得る重要な発見だと言えるでしょう。

しかし一方で、ケンタウルが本当に人間の「心」や「意識」にまで迫っているかについては慎重な見方もあります。

たとえばケンタウルは、人間が抱えるような感情的な葛藤や、道徳的・倫理的な選択などの深い側面まで、本当に理解していると言えるのでしょうか。

ケンタウルの示した「64%の精度で人間の行動を正しく予測した」という結果は、人工的なエージェントの予測精度(35%)を大きく上回っているため、確かに「人間らしい予測ができる」ことを示しています。

しかし逆に言えば、人間の複雑な意思決定を完全に予測するにはまだ十分とは言えない精度でもあります。

人間には常に気まぐれさや一貫性のなさがつきまとうため、「AIが本当に人間らしく振る舞える」と自信を持って言い切るにはさらなる研究が必要なのです。

また今回の成果は、使われたデータに含まれる文化的・社会的な偏りについても注意が必要です。

実験の参加者の多くが欧米の大学生などいわゆる「WEIRD」(西洋的・高学歴・工業化社会・豊かな民主主義国)な層に偏っていることは、ケンタウルが学習した「人間の行動や思考のパターン」が、世界中のあらゆる人々に本当に当てはまるのかという疑問を投げかけます。