しかし、系統全体の需給バランスを崩すほどの規模で太陽光発電が一斉に停止した場合には、重大な影響が出るおそれがあります。

たとえば、東京電力管内では、晴天時にはおよそ1,800万kW(1,800万キロワット)の太陽光発電が稼働しています。軽負荷期(電力需要が少ない季節や時間帯)において、このうち120〜150万kWが突然停止した場合、周波数はおおよそ0.5Hz程度低下すると予測されます。これは系統安定性にとって非常に大きな変動であり、一部の地域では自動的に負荷が遮断されるなどして、停電が発生する可能性があります。

つまり、太陽光インバーターの停止が局地的であれば大きな影響は限定的ですが、広域かつ大規模な停止となれば、電力システム全体に深刻な混乱をもたらすリスクがあるのです。

スペインの大停電も実行可能?

2025年5月28日12時30分過ぎ、スペインとポルトガルのほぼ全域で大規模な停電が発生しました。この事故について、私はテロ攻撃によるものとは考えていません。というのも、スペインと中国の間に顕著な政治的対立はなく、また、同月の前週にもスペインの一部地域で停電が発生していたことから、電力系統自体が不安定だった可能性が高いと考えられます。

スペインでは近年、急速に太陽光発電の導入が進んでおり、それに送電インフラの整備が追いついていないことが、系統不安定化の原因となったのではないかと推測しています。

しかし、今回の資料を整理・調査する中で新たに気づいた点があります。それは、もしスペインやポルトガル国内に設置された中国製インバーターに対して、一斉に「停止せよ」という遠隔コマンドが発せられたとしたら──同様の大規模停電を人為的に引き起こすことも、技術的には十分可能ではないか、ということです。

実際に今回の事故がそうであったという証拠はありませんが、これまでに述べてきたリモート制御の仕組みや、アップデートを通じたコマンド送信の可能性を踏まえると、理論上は「電力インフラに対する無形の攻撃手段」として成り立ち得ることを強く意識せざるを得ません。

残る疑問