中には、自分の体が巨大化したり、あるいは完全に消えてしまったかのような錯覚、さらには時間が止まったかのように感じることもあったそうです。
ただし、こうした特別な体験は毎回起こるわけではなく、特定の条件が揃ったときだけ訪れる一時的な現象であることがわかりました。
さらに興味深いのは、こうした特殊な体験が起こる条件です。
多くの参加者が「身体的な刺激だけでは色や映像は現れない」と述べており、実際には相手への強い愛情や信頼、深い安心感、そしてリラックスして完全に集中している状態で初めて共感覚が現れるということでした。
逆に、心のつながりが薄いと感じる状況では、ほとんど何も起こらないと答えた人が多かったのです。
また初めて性的な体験をした際には性的共感覚を感じた人もいませんでした。
つまり、性的共感覚は最初の性的経験から直ちに起きる現象ではなく、ある程度の性的経験を経て、感情的な条件が揃った状態で後天的に出現する可能性があったのです。
一方、性的共感覚を持たない人たちでは、このような特殊な視覚的体験や強烈な意識変化を感じることはほぼありませんでした。
ごくまれに幽体離脱のような経験をしたと報告した人が1名だけいましたが、これは不安やストレスが高まった極めて特殊な状況での例外的な体験だったとのことです。
また性的共感覚を持つ人々は、性的な場面以外でも日常的に似たような感覚を味わうことがありました。
たとえば音楽を深く聴き込んだとき、瞑想中、出産のとき、あるいは失恋など強い感情が動いた瞬間にも、色や映像が浮かぶことがあると語りました。
こうした現象は毎日のように起きるわけではありませんが、年に数回から月に数回のペースで訪れる人もいて、その頻度や強さは人それぞれでした。
研究者たちは、これらの体験が薬物や精神疾患の影響を受けていないことを慎重に確認しています。
つまり、ここで見られた共感覚や強い意識変容は、まさに本人の脳が自発的に作り出した『純粋な体験』であることが裏付けられたのです。