そして、性的共感覚を経験する人たちは、ほぼ全員が「これによって性的な快感がとても強く深くなった」と話しています。
彼らにとってこの不思議な感覚体験は、性的な喜びを一層引き立てる『脳が生み出す極上のスパイス』のような存在になっているようです。
脳はなぜ「快感」を「色」に変えるのか――性的共感覚の謎を追う

今回の研究によって、「性的共感覚」は実際に存在する現象であり、単なる脳の配線ミスではなく、心や意識が深く関係している可能性が示されました。
これまで性的共感覚は、ほんの一握りの人だけが経験する特殊な現象だと思われてきましたが、今回初めて科学的に調べてみると、そこには驚くほど繊細で複雑なメカニズムがあることがわかりました。
研究者たちは、なぜオーガズムの瞬間に色やイメージといった視覚的な体験が起こるのか、その理由について2つの重要な仮説を考えています。
1つ目は、脳の中の神経伝達物質(脳内の化学物質)に対する感度が人よりも高いという説です。
私たちの脳では通常、感覚や感情を司るためにセロトニンやオキシトシンなど様々な化学物質が働いていますが、性的共感覚を持つ人たちはこれらの物質に対して敏感で、わずかな刺激でも強い反応を示すのではないか、というのです。
実際、性的共感覚で体験される強烈な幸福感や色鮮やかなヴィジョンは、薬物で誘発される幻覚体験に似ていることもわかっています。
つまり、脳の中の化学物質がちょっとしたきっかけで過剰に作用して、通常ではありえないような「感覚の融合」を引き起こしている可能性があるのです。
2つ目の仮説は、脳の感情を司るエリア(「辺縁系」や「島皮質」)が、通常よりも活発に反応しやすいという説です。
辺縁系は私たちの感情や記憶をコントロールする重要な部分であり、特に島皮質は、身体感覚や感情を統合する役割を担っています。