外へ出た準粒子は、もともとの系の持っていた「情報とエネルギー」を、まるで外へ持ち去るように見えるのです。
そして準粒子が系から出て行くと、その粒子が本来保持していた配置やパターンは壊れてしまい、元々の配置が再現できなくなります。
言い換えると、カードの片方が失われると、元々どんなペアだったのか(つまり元の情報)はわからなくなります。
このようにして、情報は系から失われることになるのです。
準粒子が逃げ出した際には、同時に「エネルギー」も系の外へと運び出されます。このエネルギーの持ち去りが、系の中でのエネルギー損失として観測されます。
実験では、このエネルギーが失われる瞬間を実際に計測することで、情報の消失という現象をはっきりと捉えました。
つまり量子の世界で情報が消えるとは、「系が持っていた情報(粒子の配置)が、準粒子のペアの一方によって外へ持ち去られ、元に戻せない状態になる」と解釈できるのです。
こうして、長らく謎だった量子世界での「情報消去」という不可視の現象がついに実験的にもモデル的にも、その姿が明らかにされたのです。
情報はエネルギーである――量子コンピュータの未来を左右する新事実

本研究は、量子の世界でも情報を消去するという操作は明確にエネルギー散逸を伴うことを改めて示し、情報理論と熱力学、そして量子物理学の密接な関係を実証したものです。
一般に私たちは情報を単なるデジタルデータとして捉えがちですが、量子レベルでは、情報とは原子や粒子がどのような配置や動きをしているかを記録した「物理的な状態そのもの」です。
つまり、情報を消すという行為は、この物理的状態に込められた情報が消えることを意味し、それは必ず環境へとエネルギーが逃げ出していくことを伴います。
この結果は、「情報の消失」が単なる記録の消去にとどまらず、必然的に系からエネルギーが失われてしまう物理現象だということを示しています。