これは、「量子世界でも、情報を忘れるということはエネルギーの損失を意味する」というランダウアーの原理の予測を、複雑な量子多体系という状況でも確認できたことになります。
実験で計測したエネルギーの損失量や情報が失われるスピードは、理論的なシミュレーション結果とも非常に高い精度で一致していました。
さらに研究者たちは、この目に見えない現象を直感的に説明するために「準粒子」という概念を使ってわかりやすく解説しました。
準粒子とは、複雑な量子世界で起きる集団的な現象を、まるで「1個の粒子」であるかのようにイメージ化した概念で、例えば、電子の穴(正孔)や物質内部での振動(フォノン)などが有名です。
準粒子は物質の中で起きる複雑な現象やエネルギーの変化を、「粒子が実際に動いているかのように」わかりやすく理解するために物理学者が考え出した概念です。
今回の実験でも、量子系に強い乱れを与えると、多数の「準粒子」がペアとなって生まれ、それが四方八方に飛び出していくというモデルで情報の消失やエネルギーの流れを説明することができました。
簡単にいえば、情報を消すと量子の世界ではペアで「見えない粒子」が生まれ、一方がシステム外へ逃げることで、システムの持っていた情報とエネルギーが失われるという状況が描かれたのです。
なぜ「ペア」かというと、量子の世界では粒子が新たに現れる際には必ず対になって現れ、一方が持つ特徴ともう一方が持つ特徴が対照的になることでバランスをとる性質があるからです。
今回の実験では、量子系に急激な「乱れ」を加えることで、多くの「準粒子」と呼ばれる仮想的な粒子がペアとなって生成されました。
イメージとしては、ある特殊なカードが必ず2枚セットで現れるようなものです。
重要なのはここからです。
この「カード」のペアのうち、一方が系の外側へと飛び出していきます。
もう一方はもともとの量子システムに残りますが、問題は外へ飛び出した側の準粒子です。