次に実際にどれくらいのミトコンドリアが移動しているのか調べるため、研究チームは神経細胞とがん細胞のミトコンドリアに、それぞれ異なる色の蛍光ラベルを付けました。

神経細胞は緑色、がん細胞は赤色に光らせ、ミトコンドリアがどこに移動したかを正確に追跡しました。

その結果、神経細胞の緑色のミトコンドリアが赤色のがん細胞の中に入り込み、多くのがん細胞が「二色」のミトコンドリアを持つようになっていました。

また、両者が物理的に直接触れ合っている時にこの現象がよく起こり、接触を遮断すると、ミトコンドリアの受け渡しはほぼ起きませんでした。

さらに、この「橋」を作るトンネルの形成を薬剤で邪魔すると、ミトコンドリアの受け渡しは大幅に減少しました。

これにより、このトンネル状の「橋」がミトコンドリアの移動に重要な役割を果たしていることが裏付けられました。

神経細胞からミトコンドリアを受け取ったがん細胞は、一体どのような変化をするのでしょうか。

ミトコンドリアをもらったがん細胞を詳しく調べると、他のがん細胞よりもエネルギー生産(ATPの生成)が大きく増え、活発で元気な状態になっていました。

さらに、転移の過程でがん細胞が遭遇する厳しい環境、例えば血流による強い力(せん断ストレス)や、活性酸素による攻撃に対しても、神経からミトコンドリアを受け取った細胞の方がはるかに生き残りやすいことが分かったのです。

つまり、神経由来のミトコンドリアを手に入れたがん細胞は、まるで特殊な「エネルギータンク」を手に入れたように強化され、過酷な環境にも耐えられる「エリート」細胞になっていました。

しかし、こうした「エネルギーを受け取ったがん細胞」は体の中で最終的にどこへ向かうのでしょうか。

研究チームは、この疑問に答えるため、「MitoTRACER(ミトトレーサー)」という新しい技術を開発しました。

MitoTRACERは、神経からがん細胞にミトコンドリアが移った時にがん細胞が蛍光の色を変えるという仕組みで、一度色が変わったがん細胞は、その後もずっと同じ色を保ち続けることができます。