自分の頭だけで書いたグループの文章は個性的で創造性が感じられましたが、AIを使ったグループの文章は表現が画一的で、「まるで魂がこもっていない(soulless)ようだ」と評価されました。

さらに興味深い結果として、AIを使って書いた人は自分の書いた文章をあまり記憶していませんでした。

一方、自力で書いた人は自分の文章をよく覚えていて、文章への愛着や達成感も強く感じていました。

また実験を繰り返すうちに、AIを使い続けた人は徐々に文章を書く意欲が落ち、最終的にはほとんどをAI任せにするようになりました。

AIへの依存ができるグループでは実験開始時はAIを補助的に使っていた人も、3回目のエッセイを書く頃には「プロンプト(お題)だけ与えて、あとはほぼ全部ChatGPTにやってもらう」状態に陥ったといいます。

最終セッションで条件を入れ替えた際の結果も似たものでした。

3回にわたりAIに頼っていた人たちが第4回で急に自力執筆に切り替えられると、脳の活動は自力で練習を重ねて熟練レベルに達した人たちの水準には遠く達していないことが確認できました。

特に自己主導的な思考や創造性、批判的な認知プロセスを司るアルファ波やベータ波の活動は、自力での執筆を繰り返した熟練者のレベルと比べて有意に低いままでした。

つまりAIに依存した文章作成経験は初期段階から能力の退化をもたらしたわけではなかったものの、自力で頑張った人たちに比べて低い状態に留まっていたのです。

研究者はこの現象を「認知的負債(Cognitive Debt)」と名付け、AIに頼りすぎると自分で考える力が停滞してしまう可能性を指摘しています。

つまり、便利なAIを使い続けることで、私たちは知らないうちに脳の成長の可能性を鈍らせているかもしれないのです。

AI時代のサバイバル術—―脳の『筋トレ』を忘れるな

AI時代のサバイバル術—―脳の『筋トレ』を忘れるな
AI時代のサバイバル術—―脳の『筋トレ』を忘れるな / Credit:Canva