しかし、扁桃体がうまく働かない状態では、その大切な「先生を見分けるスイッチ」が機能せず、幼鳥は目の前にいるどの先生にも同じように興味を示してしまいました。
これはまるで、私たち人間が好みや直感を失ってしまった状態に似ているかもしれません。
扁桃体はもともと、恐怖や不安などの「ネガティブな感情」を処理する脳の部位として広く知られていました。
ところが最近の研究からは、扁桃体が単に恐怖だけではなく、「好き」「魅力を感じる」「この人と関わりたい」といった積極的な社会的な感情の調整にも関わっていることが分かりつつあります。
今回の結果はさらに踏み込み、扁桃体が「誰を先生にするか」という模倣学習に欠かせない重要な役割まで担っていることを示した画期的な発見です。
またこの発見は、小さな鳥だけの話ではありません。
人間を含む他の動物たちにも、「誰かの真似をして何かを学ぶ」という文化伝達の仕組みが広く存在します。
つまり今回のキンカチョウの研究結果は、私たちが無意識に先生を選ぶ際の心の動きや脳の働きを理解するための重要なヒントになる可能性があります。
もちろん、この研究で分かったのは先生選びの脳の仕組みの一部であり、他にも多くの要素や脳の部位が関係していると考えられます。
今後、さらに研究が進めば、私たち人間が何かを学ぶときに感じる「この先生なら学びたい」という気持ちや、その判断がどのように行われているのか、もっと詳しく分かるかもしれません。
今回のキンカチョウの発見を通じて私たちが学ぶべき最も重要なことは、文化や技能を次世代に受け継ぐための「先生選び」は、単なる知識や技術の問題ではなく、「社会性」という私たちの本能的な感情と切り離せないものだということなのかもしれません。
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参考文献
歌の先生を選ぶために働く脳の仕組みの解明にむけて手がかり
https://www.waseda.jp/inst/research/news/81035