環境相の浅尾慶一郎氏は「偽情報の拡散は深刻な問題」と述べ、科学的根拠に基づく政策推進のためには、誤解を正すことが必要だと強調した。だがこの発言は、科学的真理の探求というよりは、政府が定めた“正しい物語”を国民に納得させるためのメッセージとも読むことができる。
科学の名を借りた政治的メッセージが、どのようにして政策支持や世論操作と結びついていくのかを検証することは、現代の民主主義社会にとって欠かせない。
特筆すべきは、このような言説があくまで“国内向け”であり、国民への理解と支持を得るための内政的広報戦略として展開されていることである。つまり、「我々は国際社会からの圧力ではなく、自らの判断として科学的立場を明確にしている」という体裁が強調されているのだ。
一方、ほぼ同時にNHKが海外向けに発信した英語ニュース「NHK World」では、日本政府のこの取り組みを「国際的な誤情報対策の一環」と位置づけ、世界の気候懐疑論者と並べて紹介していた。ここでは、国連広報担当のメリッサ・フレミング氏を登場させ、国連の方針に協調する形で、日本も正しい情報を提供する努力を進めていることが強調されている。
Fighting falsehoods: the online battle over climate truth
つまり、国内向けには「科学的根拠に基づく自主的判断」、国外向けには「国際潮流に従う従順なパートナー」として、それぞれ異なるトーンで説明がなされていたのである。これは、外交上の立ち回りとしては理解できるかもしれないが、科学の独立性という観点から見れば、懸念すべき情報操作の表れである。