もし本当に空間や時間が幻影に過ぎず、もっと根源的な幾何学的存在があるとすれば、それは物理学だけでなく哲学にも深く関わる問いかけとなるでしょう。
アンプリチューヘドロンの研究は、「私たちの現実とは何か?」という根本的な問題にまでつながっているのです。
万物の理論へ──アンプリチューヘドロンが描く未来図

アンプリチューヘドロンが提唱されてからまだ日が浅いにもかかわらず、このアイデアは理論物理学のコミュニティで急速に関心を集め、発展を続けています。
アルカニ=ハメド氏らは後に「loop amplituhedron」や「momentum amplituhedron」といったバリエーションを開発し、異なる性質の散乱振幅にも幾何学的手法を適用できるよう研究を進めています。
これは無限個の面を持つ特別な形であり、あらゆる散乱過程を一つにまとめ上げる可能性があると言われています。
その体積は考え得るすべての散乱過程の振幅を包含するとも言われ、まさに万物を一つにまとめ上げる数学的構造の夢を感じさせます。
一方で、解決すべき課題も残されています。
先に触れたように、アンプリチューヘドロンの手法が現実の宇宙の粒子(標準模型の粒子)にもそのまま適用できるのか、まだ検証が必要です。
現在までのところ、この手法は計算を単純化するために超対称性など理想化された条件を用いた理論で主に検証されています。
今後は超対称性がまだ見つかっていない現実の素粒子の世界へ適用範囲を広げ、予言が実験結果と整合するかを見極める研究が進められるでしょう。
それでもなお、多くの物理学者がアンプリチューヘドロンに強い関心を寄せています。
理論物理学の巨人、エドワード・ウィッテン氏は「この分野は非常に速いペースで発展しており、今後何が起こるのか、どんな教訓が得られるのか見通すのは難しい」と述べており、驚きと期待が混ざった反応を示しています。