この現象は私たちの身の回りでも溢れています。
たとえばスーパーや遊園地などで迷子になってしまった子供は、しばしば母親を求めて泣き続けますが、母親に出会って抱きしめられると安心して泣き止みます。
一見すると何気ない風景に思えます。
実際、幼い頃に迷子になって同じような経験をした人もいるでしょう。
しかしよくよく考えると、この母子間の現象が非常に興味深いことがわかります。
この現象には「なぜ子供は母親が好きなのか?」あるいは「なぜ子供は母親を求めるのか?」という哺乳類としての最も根源的な要因が含まれているからです。
「幼い子供が母親を求めるのはあたりまえだ」と思うかもしれません。
しかし、その「あたりまえ」がどのようなメカニズムによって機能しているかは、誰も知らないのです。
そこで今回、イェール大学の研究者たちは、母子間の絆の根底にある脳回路を調べることにしました。
子供と母親の絆を作る脳回路
調査にあたってターゲットとなったのは「子供時代に活発なのに大人になると弱まる脳回路」でした。
人間やサル、マウスなどの哺乳類は子供のときには母親を求めますが、年齢を重ねるにつれて徐々にその傾向は薄れていきます。
そのため、子供が母親を求めるのに使われる脳回路があった場合、子供のときと大人のときの活性に大きな違いがあると予測されたからです。

すると脳内の視床の一部、不確帯と呼ばれる領域にあるニューロン(ソマトスタチン発現ニューロン:ZISSTニューロン)に、子供と大人で働きに大きな違いがあることが判明。
ただこのままでは、そのニューロンが本当に子供が母親を求める機能をしているかはわかりません。
そこで研究者たちは遺伝子操作を行い、そのニューロンが活性化したときに光を放つように改造しました。
そして遺伝子操作を受けた生後16から18日の子マウスの脳に光ファイバーを差し込み、どんなタイミングで光が発せられるかを記録しました。