では人の細胞にサンショウウオのようにこの信号を“聞かせる”ことはできるのでしょうか?

モナハン教授は、ポイントは「細胞がレチノイン酸などの再生シグナルを再び感知するよう、細胞内の遺伝子プログラムを再起動させること」だと言います。

アホロートルでは傷を負った細胞が「脱分化」といって一度初期状態に戻り、再び胚(胎児)のような状態で手足を作り直します。

一方、人の細胞は傷ついても脱分化せず、そのまま修復・瘢痕化に進むため再生できません。

研究チームは、適切な遺伝子プログラムのオン・オフを制御できれば、外部遺伝子を導入せずに部分的な再生を誘導できる可能性があると述べています。

モナハン教授らの発見は、まさにそのスイッチの一端を示すものです。

「人の線維芽細胞にもこの再生の合図(レチノイン酸)を聞かせることができれば、あとの作業は細胞自身がやってくれるはずです。彼ら(線維芽細胞)はサンショウウオと同じように発生の過程で一度手足を作っているのですから」とモナハン教授は説明しています。

今回見つかった酵素CYP26B1やShox遺伝子といった要素は、人間の細胞に眠る「再生プログラム」を起こすカギになるかもしれません。

もっとも、人が実際に手足を再生できるようになるまでには課題も山積です。

再生の合図は解明されつつありますが、それを受け取る細胞側の仕組みや、レチノイン酸が細胞内でターゲットとする遺伝子群の特定など、今後さらに深い理解が必要です。

また、人の組織でサンショウウオのような脱分化・再生を誘導するには、安全かつ精密な遺伝子制御技術(例えばCRISPRなど)の進歩も欠かせないでしょう。

ヒトの四肢再生は遠い未来かもしれませんが、生物が本来持つ再生能力の片鱗が人間にも残っているのであれば、将来的にそれを呼び覚ますことも不可能ではないかもしれません。

一方で、本研究は創傷治癒の分野にも新たな視点を提供します。