レチノイン酸が具体的に細胞内でどの遺伝子を動かしているかも調べられました。
特に「ショートホームボックス遺伝子(Shox)」と呼ばれる遺伝子がRAに応答して活性化し、骨の成長に重要な役割を果たすことが突き止められています。
実際にCRISPR-Cas9という手法でアホロートルからShox遺伝子を無効化すると、再生した腕の骨(上腕部や前腕部)が短くなり、末端の指の部分だけが通常サイズで形成されるという異常が起きました。
興味深いことに、人間でもShox遺伝子に変異があると腕や脚が短くなる症状が知られており、サンショウウオの再生機構と人間の発生メカニズムの共通点を示唆しています。
以上の結果から、研究チームは「アホロートルの再生する手足の位置や大きさは、ニキビ薬成分にも含まれているレチノイン酸の濃度によって決まっており、その濃度を調整するCYP26B1酵素が一種の『再生GPS』として働いている」と結論付けました。
失った部位が肩に近ければRA濃度が高く保たれ、「腕全体」を再生するプログラムが動きます。
一方、指先に近い箇所では酵素がRAを素早く分解して濃度を下げるため、「手先だけ」を作るよう細胞に指示が与えられるのです。
ヒトの細胞に再生の声を届けられるか

今回明らかになったレチノイン酸による「再生の指令シグナル」の発見は、失われた手足の再生という再生医療の究極の目標に一歩近づく重要な知見です。
モナハン教授は「再生の合図を解明できたことは、人間への応用に向けた大きな前進です」と述べています。
人間にもレチノイン酸を感知する細胞(線維芽細胞など)は存在しますが、私たちの場合、腕を怪我するとそれらの細胞はコラーゲンを沈着させて傷痕を作る方向に進んでしまい、サンショウウオのように再生モードに入らないのが現状です。
言い換えれば、信号そのもの(レチノイン酸など)は人間の体内にも流れていても、細胞がそれを「聞いていない」ために再生が起こらないと考えられています。