これはランダムな単語リストを思い出す場合と異なり、物語記憶では構造が道筋を付ける役割を果たしていることを示唆します。
フォルダー脳の可能性と限界

階層的なツリーモデルによって、人間の物語記憶のメカニズムに新たな光が当てられました。
本研究に直接関与していない専門家も、この成果に注目しています。
米ダートマス大学の神経科学者ジェレミー・マニング氏は物語を理解する上で階層構造が重要だという考え自体は以前からあったものの「より広範で“中心的”な記憶はツリーの下位の枝に位置し、そこから物語全体が構成されていることを示した点が新しい」と評価します。
そして「この種のモデルによって、物語中のあらゆる出来事が等しく重要で記憶に残るわけではないことが示された」と指摘しています。
確かにツリーモデルでは、物語の骨子となる出来事が上位の分岐点(浅い層)に集約され、細かな枝葉の事実は下位分岐点(深い層)に位置づけられるため、記憶の取捨選択が自然と行われる構造になっています。
また、米ジョンズ・ホプキンス大学の記憶研究者ジャニス・チェン氏は「この研究には非常にワクワクさせられました」と興奮気味に語りました。
チェン氏によれば、心理学者たちは 100 年以上にわたって物語記憶を研究してきたものの、大規模で主観的な再話データの分析には常に壁があったそうです。
今回、ツォディクスらが AI ツールを用いてその壁を乗り越えたことを高く評価し、「これは物語と記憶に関する強力な計算論的研究の新たな分野の始まりだと思う」と期待を寄せています。
今回の成果は、人間が物語を記憶し再現するメカニズムを定量的に説明する一つのモデルケースとなりました。
研究チームは今後、このツリーモデルを二人の会話の記憶など他の種類の叙述的記憶にも適用し、同様の階層構造が見られるか検証していく計画です。