ちょうどパソコンでファイルをフォルダーとサブフォルダーに分けて整理するように、脳がストーリー情報を階層的なツリー構造で保存しているイメージです。

そしてツリー上の各分岐点には、その下位にぶら下がる詳細な情報(葉に相当)を要約した内容が記録されていると考えます。

例えば上位レベルの分岐点には複数の出来事をまとめた抽象的な要点が、下位レベルの分岐点には単一の具体的な出来事の記憶が格納されます。

このモデルでは記憶時に細部まで逐語的に保存するのではなく、階層ごとに情報を要約・圧縮しながら保持しているわけです。

では、思い出すときにはどうなるでしょうか。

モデルによれば、私たちが物語を再話するときには、記憶されたツリー構造を根元から順に、一度に辿れる範囲(作業記憶の制約があるため最大4階層程度まで)で内容を取り出していくと想定します。

作業記憶の容量(同時に心に留めておける項目数)によって、一度に辿れるツリーの深さには上限があるのです。

研究チームはこの作業記憶の制約をモデルに反映させるため、ツリーの形にいくつか分岐点を設けました。

ツリーの分岐の仕方はランダムとしつつも、一つの分岐点が持てる子分岐点数を最大4つまでに制限し、またツリーの深さも作業記憶容量の限界を考慮して最大4階層までに制限したのです。

これは、人間が同時に注意を向けられる情報の数がおおよそ4±1程度である(“マジカルナンバー4”とも呼ばれる)という心理学の知見に基づいて設定されたものです。

つまり「最大4つの枝が入れ子になった深さ」までしか詳細には立ち入れないメモリーツリーを想定したことになります。

このようなツリーモデルを用いて計算機内で多数の「仮想記憶ツリー」を生成し、その統計的性質を分析したところ、興味深い結果が得られました。

モデルから導かれた予測を人間の実験データと比較すると、平均的な傾向が驚くほどよく一致します。